2019.8.9-12 剱岳 八ツ峰マイナーピーク東面スラブ、池ノ谷右俣ドーム稜、八ツ峰Ⅴ峰スカイクラック


日付 2019/8/9(金)-12(月祝) 天候 ピーカン  参加 鈴木(L,投稿)、穴井

 8/9 黒四ダム~ハシゴ谷乗越~真砂沢ロッジ指定地
8/10 ~三ノ沢~東面スラブ~マイナーピーク~八ツ峰下半~熊の岩
8/11 ~八ツ峰上半~剱尾根コルB~ドーム稜~本峰~熊の岩
8/12 ~スカイクラック~ハシゴ谷乗越~黒四ダム

 こんな時じゃなきゃ登らないルート選、ということで今年も剱へ行ってきました。
 私はどのルートでも力不足を思い知らされましたが、絶好のコンディションと強力なパートナーのおかげで、何とか。

〇1日目〇
 今年からトロリーバス改め電気バスになった関電トンネルを抜けると、人混みから解放され、かわって酷暑のアプローチが始まる。 
 黒部の谷底から明るさに満ちた内蔵助平へ、そして雪で磨かれた剱へ。
 少しずつ山懐に入ってゆくこのコースは私のお気に入りだ。

 ハシゴ谷乗越を越え、本山行最初の目標と対面。
  マイナーピーク東面スラブ。沢沿いのハング下から、頂上直下のカンテ状へ。
 記録では15ピッチを要したパーティもあるそうな。なるほど長い。

 剱沢へ下り、三ノ沢を偵察。出合から三ノ沢F1。
今年は雪解けのスピードが速いそうな。

 天場で睡眠負債を完済するつもりでいたが、カンカン照りで休める場所などなく、1日で1か月分の汗を吸ったかと思われるシャツを洗濯したりして過ごす。日が沈んでようやくツエルトに入れる気温になった。


〇2日目〇
 夜明けとともに三の沢に入る。
 今日からお盆休みの最盛期だが、先行も後続もいない。さすが、マイナーピークのマイナールート。

 F1の巻き。
岩は見た目ほど脆くないが、とにかくすべてが土砂に埋もれている。掃除しながら慎重に登った。

 巻き終えれば、あとは易しい雪国の沢歩き。
 スノーブリッジ潜りが一か所。
後刻スラブを登っているとき、ゴロゴロと不気味な音を立てていたのはこの辺りの雪渓だろうか。くわばらくわばら。

 三ノ沢に入って1時間、予想以上に順調に取付に到着。

雲ひとつない上天気。登りますよー!

 1P目。左の立ったフェースに残置があったが、ハングを縫って登ったほうが面白そうだったのでこちらを選択。しかしハング越えの手前でプロテクションがとれず大苦戦、この1ピッチに1時間近くかけてしまった。面白そうとか、そういうこと言える実力かどうか、よく考えないといけない。(鈴木、35m)

 ハングを越えた上は、色とりどりの花が咲き乱れるのびやかなスラブだった。
 ロープをしまい、息を整えながら。
どこでも登れ、浮石は皆無と言ってよく、時折吹き抜ける風が汗を乾かしてくれる。対岸にはⅢ稜の岩稜がどんどん低くなってゆく。
 ああ、気持ちいい。

 中央の岩溝を傾斜に導かれるままに渡り、スラブに吸い込まれるあたりでロープを出そうか一瞬迷う。でもここまでが簡単だったから、まだ大丈夫だろうとずんずん進んでいったら、逆層の岩に取り囲まれてしまった。
 慌ててロープを出し、トップはこのルート中唯一クライミングシューズで。気の抜けない登りだった。(2P目、穴井、40m)

 3P目、再び静かなスラブ歩き。後ろはⅢ稜。(鈴木、35m)
  4P目、傾斜の落ちたカンテ状を登り、岩場のてっぺんに着いた。(穴井、40m)

 このルート、スケールも岩の硬さも申し分ない。
 ただ、沢登り的な総合力が要る割にピッチグレードは低い。
 それでも登りたい好事家向けに、これからも静かな岩場であり続けることだろう。

 終了点から八ツ峰Ⅰ峰。遠い。。

  頂稜の反対側を見下ろせば真砂沢の天場に手が届きそうだが、我々の目指すは真の(?)八ツ峰縦走だ。ⅠⅡのコルからⅠ峰を往復して夏の八ツ峰を縦走したことにするのはどこか納得がいかない。
 そんな私のモヤモヤを解決してくれる今回のルートは、まずボロボロの岩稜下りから始まった。
そしてコルから、奥に見える垂直のヤブへ。

 一応写真を載せたが、これは後から撮ったヤラセ画像。
 核心(?)部分ではそんな余裕はなかったし、シャッターを押してもヤブしか映らないし、そもそも片手を離せば空中へ放り出されていただろう。
その昔、針の山の地獄として描かれたという剱岳。その一部は先人たちの開拓によって楽しい登攀ルートに変貌したが、この辺りはまだまだ地獄のおもかげをとどめていて、悩める登攀者に相応の責苦を味わわせてくれる。

 垂直部分から解放され、ほっと一息。
「こんなヤブに連れてきやがって」とは、穴井さんは言わない。
 「こういう山もやらないと力がつかないなぁ」なんて、ほんとにいい人だ(涙)。
 このあたりも、踏み跡らしきものはあるのだが、いかんせん藪の下なので足が届かない。

 Ⅰ峰が近づくにつれ、岩場や草付が増えて歩きやすくなってくるが、暑さも一段とこたえる。
 日陰に飛び込んでは休憩を繰り返し、15mの懸垂1か所、残置がたくさんある岩登り1か所でロープを出し、Ⅰ峰までなんと4時間もかかってしまった。
 体力つけねば。。

 テントがいっぱいの熊の岩。
 おまけに長次郎雪渓には、まだまだ上がってくる人の列が見える。

 満員だったら雪の上で泊る?それともⅤⅥのコル??なんて心配したが、どうにか一張分のスペースをいただくことができた。
  溢れる清水、居並ぶ岩峰群、後立山の残照、風のない平らな下地…、さっきまでの地獄から、突然極楽に迷い込んだよう。
 二人とも熊の岩に泊まるのは久しぶりなので、改めて熊の岩のすばらしさに酔い、前に訪れてからの時の流れを思って、ちょっとしんみりしてしまった。

〇3日目〇
 計画ではⅤ峰スカイクラックを登り、ビバークを挟んでドーム稜へ継続の予定だったが、予備日やら水やらの厄介をいっぺんに解決してくれる外出形式にあっさり変更。熊の岩の引力に完全に負けた。

 表へ出ると、ちょうど八ツ峰からオリオン座が昇ってきたところだった。
(穴井さん撮影!)

 ご来光を拝み、今日はどうかそうギラギラ照らさないでくださいとお願いする。

 
  三ノ窓にて。
 チンネに寄り道したくなるのをぐっとこらえ、未だ陽の当たらない池ノ谷へと下る。
 極楽はここまでだぞーという目に見えない境目を越えてしまったような、心細さをひきずりながら。

  ぐずぐず。がらがら。雪渓がすっかり消えていたのは幸運だった。

  奥の二俣に着いたら、今度は地の底からの脱出行。
 こちらは具合に雪渓がつながっていて、難なくR2取付へ。今回の山は本当にラッキー続きだ。

 R2を登る。剱尾根へ行き来する人がいるのか、岩はわりと安定していた。

 詰め上げたコルBから、今度は反対側のαルンゼへ。もう地名が入り乱れて、何がなんだかよくわからん。
  トポ通り、入口と出口で40mの懸垂。
 ここの岩はR2と違って不安定。電子レンジ大の岩がちょっと触ったら真っ二つに割れて落ちたりする。ロープを傷めずに下れてよかった。
 支点は絶好の位置にしっかりしたものがあり、残置スリングも真っ白にはなっているが、そんなに古いわけではなさそう。

 下るにつれて硬く開放的なルンゼになり、対岸に目指すドーム稜が見えてくる。
  2p目の顕著な凹角が目印。
 ネットに情報が氾濫する世の中にあって、無雪期ではここ10年以上登った記事の見当たらないルートだが、αルンゼ出合からは明瞭な踏み跡が伸びていた。
 スラブ下の小広いテラスでロープをつける。ここはクライミングシューズも。
 日陰になっているのが本当にありがたい。思い切って水を減らして登攀開始。


  1P目、スラブ。手の切れそうなカチカチの花崗岩。やっぱり剱はいいなあ、と思いつつ、いつ欠けるかわからないホールドに私は腰が引けっぱなし。(穴井、30m)

2P目、顕著な凹角の下を左へ回り込み、隣の凹角からテラスへ。後ろの中央壁のスッキリした見た目と比べるとブッシュが気になるが、中央壁はスッキリしすぎていてどこを登るのだか見当もつかない。(鈴木、30m)

  3P目、高度感のあるスラブ。穴井さんはサクッと抜けて行ったが、私にはフリーでリードするのは厳しかったと思う。(穴井、30m)

 カンテの陰から出ると、今日もやってきました強烈な日差し。
 下部岩壁はここまで。右寄りにはまだ岩稜が続いているが、左のヤブのなかに踏み跡をたどって上部岩壁をめざす。

草木の生命力があふれる日本の岩登り。暗くて脆いだけが池ノ谷じゃないのね。
 途切れとぎれに出てくる岩稜は脆い箇所もあり、余裕のない鈴木はちまちまとロープを出してもらう。ここでも実力不足を痛感。


 かれこれ2時間近く歩き、岩の塊に突き当たったところで、残置のあるクラックに取り付く。
上部1P目、ハンドジャムばっちりのクラックが、剥がれそうなガバに怯えきった心をがっちり支えてくれる。(鈴木、15m)

 上部2P目、前のピッチをハング下で切ったので、トラバースから歩き。(穴井、40m)

上部3P目、マンメリークラック。下から見上げたより長く、ふうふう言いながら這い上がると剱尾根の踏み跡に出た。ガスで日本海の眺めはなかったが、充実のフィナーレだった。(鈴木、45m)

 剱尾根の踏み跡が立派な登山道のように感じられ、不人気ルートから登ってきたことを実感する。
 とはいえドーム稜、踏み跡はマイナーピーク~Ⅰ峰間より立派だし、残置支点も豊富にあって、今でも細々と登られているらしい。
 下部岩壁から上部岩壁へ、飽きさせない構成も好印象で、訪れる人がいるのは納得。


本峰で定着合宿パーティに会えるかと少し期待したが、さすがにこの時間には誰もいなかった。

  熊の岩に戻り、静かな祝杯をあげる。
 いつも山では飲まない私も、持参のウイスキーで乾杯。のつもりが、数口ですっかり酔いが回ってしまった。山も、お酒も、月一回では弱る一方だなぁと、またしんみり。(もともと強くないけど)


〇4日目〇
 今日も快晴の朝!
 最後のお楽しみ、ⅤⅥのコルからⅤ峰へ。
 スカイクラックというこのルート、その昔ロクスノに発表されたそうだが、ものぐさな私は記事を見つけることができなかった。ネットの記録を頼りに取り付く。

 1P目、熊の岩からもよく見えるコーナークラックを目指す。
  ばっちりのハンドサイズ。快適すぎて、傾斜の緩いところに溜まっていた浮石に肝を冷やした記憶は消えかけている。(鈴木、45m)

 2P目、傾斜の緩いシンハンドからスタートし、リッジ沿いにⅤ峰頂上へ。眺めが最高!(穴井、25m)

 個性の強いルートをつないだ今回の山行にはさっぱりしすぎていたかもしれないが、最終日にぴったりのデザートになった。熊の岩界隈で時間があるときにどうぞ。

 ハシゴ谷乗越の登りからマイナーピークを眺めてあっという間だった4日間を振り返り、そこからダムまで2時間で下ろうという穴井さんに懇願して3時間に負けてもらって、すべてが好条件のうちに僕らの夏山は幕を閉じた。

  マイナーなルートにはマイナーなりの、自分たちで楽しみを探す面白さがありました。
 それを楽しむために自分の体力、技術、経験を磨かなければならないという、当たり前の現実を再認識することもできました。
 対策はやっぱり、山に通うのみ…ですね。

 あってよかったもの。塩飴/塩タブレット。
 あるとよかったもの。エイリアン黒/マスターカム00。
 なくてよかったもの。3Gガラケー。下界が見えるのに全然電波入らず…

 往路も復路もずっと運転してくださった穴井さん、甘えてすみません。頼りないパートナーを引っ張ってくれてありがとうございました!!

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8/9 快晴
 黒四ダム745-内蔵助谷出合845-1015内蔵助平45-1145梯子谷乗越1200-1300三ノ沢55-真砂沢ロッジ 1400

8/10 快晴
 真砂沢指定地430-550東面スラブ取付615-945終了点1000-マイナーピーク1015-1435Ⅰ峰40-熊の岩1745

8/11 晴れのちガス
 熊の岩410-615八ツ峰の頭-三ノ窓700-奥の二股730-830コルB45-950ドーム稜取付1015-1015(下部岩壁)1200-1400(上部岩壁)1545-1620剱本峰45-熊の岩1750

8/12 晴れ
 熊の岩520-615(スカイクラック)740-815デポ地50-1000真砂沢ロッジ-1415黒四ダム

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