2017.4.29-5.3 北方稜線全山縦走(鋲ヶ岳ー毛勝三山ー剱岳)

日付 2017/4/29(土)-5/3(水)   参加 早川(CL)、穴井(投稿)

毛勝山 北峰から剱岳を望む

2017年の春山合宿は北方稜線全山縦走へ。
一昨年に黒部横断をした際に池ノ平山から遥か遠く日本海に向かって北へ伸びる稜線を眺めて、いつかは歩いてみたいと思っていた。雪もしっかりついた今年のGWは良コンディションのはず。早川さんの誘いに乗らないわけにはいかなかった。

4/29(土) 嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-烏帽子岳-僧ヶ岳-駒ケ岳-駒ケ岳直下BP

仮眠を取らずに湘南から交代で車を運転し富山へ向かう。朝焼けの日本海を眺めながら上信越道から北陸道へ入り、朝日ICからは下道で嘉例沢森林公園へ。

いつも通り寝不足のまま準備を済ませ、いつの下山になるか検討がつかない縦走に期待と不安を抱きつつ、公園に止めた車を後にする。天気予報は概ね好天を伝えていた。
歩き始めてすぐに携帯の電源を切ろうと携帯を開くと、小窓尾根組は5/1の悪天予報で計画取り消したことを知る。上手くいけば最終日に一緒に剱を踏めると思っていたのだが、こっちは予備日含めて見積もり7日の長旅だ。小窓組と一緒に頂上を踏めないのは残念だが、多少の停滞は織り込み済みなので焦らず歩こうと早川さんと話して、尾根に取り付いた。



樹林帯の登山道を15分ほどで最初のピーク、鋲ヶ岳と僧ヶ岳の分岐に出る。鋲ヶ岳へは縦走路とは逆に少し歩いたところ。861mの小さなピークの頂上には立派な東屋が立っていて樹林の先には日本海をすぐそこに望むことができた。

左手には宇奈月の温泉街が広がる
鋲ヶ岳を後にすると、来た道を少し戻りいよいよ剱岳へと続く北方稜線を辿る。約40kmの縦走路だ。左手の宇奈月尾根を眺めてつつ徐々に高度を上げていくと雪が出てきた。この日は午後から雨だからか、よく締まっていて歩きやすかった。
基本的には雪が繋がっていて歩きやすかったが、所々で巨大雪庇が崩落しシュルンドが開いていた。飛び移ったりしながら越えるが、110Lのザックに詰まった酒が重い。何度か落ちて隙間にハマったりした。
烏帽子岳を過ぎ、前僧ヶ岳で宇奈月尾根と合流してからは僧ヶ岳とその先の2002mのピークである駒ヶ岳を目指す。昼を過ぎてからは雷とアラレ。おまけにガスもかかるが、数時間で天候は回復に向かった。僧ヶ岳付近からは先行のトレースが付いており、幾分か助かった。
15:00過ぎに駒ヶ岳を踏み、毛勝山への中間にある滝ヶ倉山へ向かう。駒ケ岳からはまっすぐに南ではなく、黒部の谷寄りに向かってやや南東方向に稜線が続く。滝倉山一体は地形図ではサンナビキ山と書いてあった。この日は寝不足ということもあり、早川さんの提案で駒ケ岳から降りたところの最初のコルで幕営することにした。
稜線に沈む夕日を眺めながら、1日分、500mlのウィスキーを一気飲み。寝不足も相まってあっという間に眠りに落ちた。


4/30(日) 駒ケ岳直下BP-滝倉山-ウドの頭-毛勝山-釜谷山-猫又山-ブナクラ峠BP

2:30起床。満天の星空が辺りを照らす中、目を覚ます。多少の軽量化を図ったので夕食はアルファ米1つにごま塩ふりかけ、朝は袋麺1つといったところだ。
ラジオを聞いたところ、翌日の悪天が確実になりそうなので、天気の良い今日は時間の限り行動しようと決めた。

後立山連峰から昇る朝日が空を赤く染める

5:00にテントを畳み出発。前方にはルート中の核心部となる滝倉山~ウドの頭、毛勝山北峰への400mの急登が続く"天国への階段"を見通せた。毛勝山の遥か後方には剱が顔を覗かせていた。

滝倉山へ近づくに連れ、多少の痩せた岩尾根が出てくる。痩せ尾根上の藪とシュルンドを縫うようにルーファイしながら進む。日が高くなり始めるとシュルンド踏み抜き地獄。少し落ちてもビクともしないほどにデカい雪庇なので楽しいだけだが、雪庇と一緒に谷に落ちるとやばいだろう。

ウドの頭付近は雪壁の急登や木登りの連続でなかなか思うようには進まない。ウドの頭からコルへ降りる際、黒部の谷側に落ち込む支尾根を辿ってしまい灌木が途切れたことろで懸垂する羽目になった。50m×1回で傾斜の緩いルンゼへ降りて雪壁を登り返し、西谷ノ頭へのコルへ出た。

アップダウンが連続するウドの頭付近。今年は比較的、雪が残っていたせいか過去の記録にあるようなやぶ・ヤブ・藪といった印象ではなかった。

12:00 平杭乗越の最低コルまで降りて大休止。日差しが暑いので、樹林の下で昼食を済ませる。かき氷シロップを持ってくるのを忘れたのが痛い。雪に顔を突っ込んで火照った体を冷やした。目の前には毛勝山の頂稜まで突き上げる"天国への階段"が聳え立つ。雪はいまにも腐り始めようとしていて、ラッセルトレには最高のコンディション。重い腰を何とか起こして取り付いた。

途中で抜けだすのに苦労したシュルンド、何気に10分ほど格闘。

"天国"の名前とは程遠い、苦行のラッセルを無言で交代しつつ2時間弱で北峰の頂上へ出る。手前のニセピークを登ったところで早川さんは電源OFF状態に。最後は150mほどの緩傾斜を登りピークへ出た。

北峰の頂上はトレースがたくさん残っていて、どうやら毛勝谷や大明神山から上がってきたものだった。風が吹いているが小休止を挟んで、となりの南峰を踏むと、眼前には毛勝三山のピークへと続く縦走路。その先にはようやく剱を捉えることができた。

時間は14:00を回り、とにかく進めるところまで足を延ばしておくことにする。釜谷山、猫又山までの縦走路はアップダウンも少なく快適だ。ピークを越えるごとに剱が少しずつ近づいてきて気分も楽になる。左には黒部の谷と後立山連峰、右には富山平野の先に日本海が広がり中々の展望だった。

結局、17:30まで行動してブナクラ峠まで。赤谷山まで登り返しておきたいところだったが、コルへの下降で峠にテントを発見した為、この日はここで幕営することにした。下降の際にルンゼの雪壁が悪そうだったので念の為、ロープを出して15mほど懸垂した。

12時間しっかり歩いたので流石に疲れたが、18:00を過ぎても日が明るいので遅くまで酒が進んだ。
峠のテントは2張とも馬場島から上がってきた年配のソロ登山者で、1人は馬場島からブナクラ谷を詰めてきたのだが、疲れたので明日はこのまま下山するとのこと。もう1人は赤谷山までピストンを終えてきたところだった。話を聞くとどうやら僧ヶ岳から付いていたトレースは1日早く北方稜線を先行しているガイド夫婦とのことだった。藪のルーファイがどおりで的確だったなと納得しながらも、先行のトレースにはやはり助けられた。


5/1(月) ブナクラ峠BP-赤谷山-白萩山-赤ハゲ-白ハゲBP

3:00起床。昨夜のラジオでは悪天とのことだったが、テントから出ると黒部の谷を挟んで後立山まで見渡せる。想定外に視界は開けており、空には星も輝いていて拍子抜けする。これなら明日には剱の本峰を踏んで下山できるかと意気揚々とパッキングを済ませていると、夜明けとともにやはりガスが降りてきた。停滞も考えたがパッキングも済ませてしまい、仕方がないので進めるところまで歩くことにした。

赤谷山への登りはトレースがしっかり付いていたが、赤谷山の頂上で停滞を決め込んでいたガイドパーティのテントを追い抜くとトーレスはさっぱり無くなった。この先の白萩山~赤ハゲまでは広尾根となっており、ただの歩きなのだが視界が利かないことには進めない。仕方なく携帯のGPSを取り出した。白萩山は地形図上では名前がない2269mのピークだ。どんどん視界は悪くなり、20分おきにGPSを開いては方向を確かめながら広尾根を辿った。

赤谷山の山頂を散歩していたライチョウ

赤ハゲを通過し、白ハゲまでは痩せた岩稜帯を歩く。発達した雪庇が垂直の雪壁のようになっている箇所が何か所あったがロープは出さずにもくもくと登る。深いラッセルに雨のようなアラレが叩き付けてきて、ウェアを酷く濡らしてしまった。

この岩場は右から登ったが、切れ落ちている上に岩がもろく、貧弱な草付きはバイルが決まらず地味に緊張した。

12:30 GPS上の白ハゲの頭まできたところでいよいよホワイトアウト。尾根が続いているはずの雪庇の向こうは切れ落ちており行き詰る。荷物を降ろして、崩さないように四つん這いになりながら、雪庇の端まで身を乗り出して確かめるがやはりどこも切れ落ちている。おかしい。。30分ほど右往左往してみるが視界が効かない状況ではどうすることもできず。そうこうしてるうちに風が強くなり濡れた体が震えだしたので、見かねた早川さんに促されて停滞することに。
傾斜のある支尾根上をスコップで素早く整地して設営を済ませ、びしょ濡れのままテントに滑りこむ。ガスを全開にして暖をとり酒を飲んだ。時間はたっぷりあるのでシュラフをかぶって交互に火を見ながら暗くなるまで昼寝と決める。
寒くて目が覚めてからは夕食のアルファ米を取る。あと7袋はあるので早川さんに1つ分けるとごま塩と白米が気に入ったらしく旨い旨いと箸が進んでいた。ラジオをひと通り聞いてから眠りについたが、濡れたウェアはなかなか乾かず、夜通し寝付くことはなかった。


5/2(火) 白ハゲBP-大窓-池ノ平山-小窓-三ノ窓BP

3:00起床

予報通りの快晴。
テントを出ると眼前に迫る小窓尾根の先に剱岳の大展望が広がっていた。
今回の山行もいよいよ佳境に入り、今日は小窓か三ノ窓まで進むことに決める。
お決まりのNHKラジオで昭和の歌謡曲を聴きながら気持ちを高めるが、早川さんは絶景も相まってか妙なテンションになっていた。

朝焼けに染まる剱岳を望む特等席のロケーション。小窓尾根のニードル~ドーム~マッチ箱が見て取れる。

濡れた冬靴はシュラフで抱いて寝ること

パッキングを済ませ5:30に特等席を後にする。昨日どうしても行き詰った雪庇を確認すると黒部の谷側に一度巻いてから雪庇の下の雪壁をトラバースする必要があった。ガスってたらまず突っ込まない斜度だったので、停滞して正解だった。

大窓のコルへの下降は急な雪壁を150mほどクライムダウンした。下部の灌木帯が出てくるまでは少々嫌らしい。

大窓からは池ノ平山まで登り返しとなる。正面の斜面を登れば終わりと思いきやこの後にも岩峰のアップダウンが続いた。

途中で岩峰がリッジを塞ぐように立ちはだかりロープを1ピッチ出すことに。

岩峰を左から巻くところでロープを出す。シュルンドの深さが分からず谷側は切れ落ちている為、雪を崩してシュルンドを埋めながら足場を作りつつ登った。

岩峰を巻き終わったところでロープを仕舞っているとガイドパーティに追いつかれたので先行してもらう。同じルートで縦走してきたはずなのに2人とも40Ⅼほどのザックで身軽な装備をしていた。前日はやはり赤谷山で停滞を決め込んでいたらしい。流石に足が速く、結局この日は三ノ窓までトレースを付けてもらうことになった。雪の腐った小窓の登り返しはトレースのおかげでラッセルが助かった。

池ノ平山で小休止を取り、小窓のコルへは懸垂で2ピッチちょうど。ここからは一昨年の黒部横断と同じルート。ちょうどガイドが小窓へ登り返し始めていた為、我々も三ノ窓まで進むことに決めた。

1時間ほどで小窓へ登り返すと小窓尾根へ合流する。小窓の王基部の懸垂地点までは記憶していたより暫くアップダウンが続き長く感じた。雪は一昨年より遥かに多く、登りやすいのだが早川さんは膝がきているようで少しペースを落として確実に歩くように努めた。

三ノ窓への懸垂ポイント。ロープをセットしていると上から水が滴ってきてせっかく乾いた服が濡れた為、オーバーを着込んだ。
ここを降りれば今日の行動も終了だ。池ノ谷ガリーの登路の先には剱の本峰が目の前に迫り、ようやく明日の下山に目途がついたなと耽りながら谷へ降りていく。
2ピッチで下まで降りシュルンドをカニ歩きでトラバースしていたら、上のほうで何やら弾けるような音がした。目の前の岩に当たってスイカ大ほどに砕けた氷塊がすぐ脇を落ちていった。小窓の王の上部に張り付いてたものが緩んで落ちてきたのか、最後まで油断は禁物だ。

15:00 三ノ窓のコルにて行動終了。昨日の行動でびしょ濡れになった装備を全て広げて乾かしたら宴会の準備を始める。酒はまだまだあるので念入りに整地を済ませれば、居酒屋 三ノ窓の出来上がり。抜群の展望を酒のつまみにひと通り酔っぱらっていると小窓尾根から来た3人組パーティも上がってきて、この日の三ノ窓は3パーティと賑わった。



5/3(火) 三ノ窓BP-剱岳-早月尾根-馬場島

3:00起床。
予報通り、本日も快晴。
ガイドと小窓尾根からの3人組がテント脇を通り過ぎる音で目が覚める。
慌てて我々も準備を済ませ後を追うことにする。昨晩に予備食を豪勢に減らしたのでザックは軽い。暗闇でテントを畳んでいるときに誤ってポールを落としてしまい、20mほど斜面を滑り落ちていったが、途中で止まってくれてよかった。

4:00にパッキングを済ませて三ノ窓を後にする。

雪の締まった時間であれば池ノ谷ガリーの登高は快適だ

池ノ谷乗越からは長次郎ノ頭を超えて本峰へ向かう。振り返ると後立山連峰から昇る朝日が八ツ峰を染める。積雪期の八ツ峰も面白そうだ。

剱尾根の終了点である長次郎ノ頭とその先に見える本峰。先行していた3人組とガイド2人がちょうど山頂に見えた。

池ノ谷乗越から小1時間ほどで頂上直下の最後の雪壁を登り、6時前に誰もいない頂上へ。ザックを降ろし、暫く景色を眺めた。

頂上から5日間歩いてきた北方稜線を振り返る。毛勝三山の向こうに見える日本海は少しだけ遠くなっていた。今回の山行も天候とパートナーに恵まれて予定通り終えることできて何より。

山頂で小休止を取ったあとはザックを纏めて早月尾根から馬場島まで一気に下る。
小屋が近くなるころには登ってくる多くの登山者とすれ違った。

馬場島に下山した後はタクシーで上市駅へ。電車を乗り継いで宇奈月の手前まで戻り、もう一度タクシーに乗り換えて車の回収へ向かう。GW真っ只中の富山鉄道は観光客が多く、冬靴にガチャをぶら下げた我々は肩身が狭かったが、座席に座ると爆睡してしまっていた。
初めはタクシーでそのまま車を取りに戻ろうかとも考えていたが、早月小屋の主人に電車を使えと教えてもらったおかげで、随分と安く嘉例沢まで戻ることができた。

車を回収した後は近くの温泉で5日間の汗を流し、たら汁で有名な親不知の栄食堂で腹を満たした。安くて美味しく、昼を過ぎても賑わっていた。
いっそのこと魚津にでも1泊して日本酒を片手に新鮮な魚に舌鼓といきたいところだったが、甘い誘惑を何とか振り切り、GW後半のクライミング合宿へ向け小川山へ車を走らせることにした。

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