北アルプス北鎌尾根

 日程 8月2日~8月4日


メンバー  簑 島

2日 中房温泉4:30発~燕山荘8:00~大天井ヒュッテ11:40

   北鎌沢出合14:20

3日 北鎌沢出合4:40~北鎌沢のコル6:40~独標9:00~

   槍ヶ岳山頂13:00~殺生ヒュッテ14:30

4日 殺生ヒュッテ5:30~中房温泉15:50



北鎌尾根は何年も前から行きたいと思っていた。仕事で都合がつかなかったり悪天で中止になったりで、いつかいつかと思いつつ宿題を残したまま5.6年は過ぎたであろうか   

かれこれ8、9年くらい前に槍ヶ岳に登った時は登りも下りも山頂も超渋滞でなんと3時間も係ってしまった。もう槍はこりごりと感じたが別のルートがあるという事を数年後に知ったとき「よしっ!オレもチャレンジするぞ!」と誓ったものだった。 丁度7月の3連休に前穂に行ったので岩には馴れているし仕事もなんとか都合がつく 最近は晴天続きであるしチャンスは今夏しかない。行くなら人出の少ない平日にしようと考えた。 それに表銀座はまだ歩いた事が無いので中房温泉経由で貧乏沢を下降するルートを選択した。 中房温泉には登山者用の無料駐車場があるのでそこに車を停めさせて頂いてまだ暗いうちからヘッドランプをつけて出発した。登山道を登り始め10分くらいで辺りが明るくなってきた。今日も晴天、暑い一日になりそうだ。 途中、燕山荘では多くの人たちで賑わっていた。この近辺はピンクのこまくさ畑が多く点在していた。それに雨風に浸食された奇岩がたくさんあり水晶、鷲羽、三俣蓮華、槍ヶ岳などの北アルプスの風景を横目に気分良く歩けた。  大天井ヒュッテを過ぎて右側を注意して歩く事20分、貧乏沢入り口と小さな看板があった。「ここだ これこれ」と間違いが無い事を確認し藪に突入。  少し降りると別の本流と合流して勢いのある沢になった。左側の巻道を選びながら降りる。足場も悪く疲れてきているのでペースが上がらない。1時間前後で降りられるだろうと踏んでいたが天上沢まで長かった。2時間もかかってしまった。沢の途中、単独の人に出くわした。同じく明日、北鎌にアタックすると言う「お互い頑張りましょう」と別れ各々良いテン場を探しもとめた。暫く探して良い場所があったので早速幕営。夕立で水嵩が増えるかもしれないので少し高めの場所にした。 良い天気なので外で晩酌をしていると4人パーティーが現れ60代半ば?のリーダーらしきおじさんが「去年は此処にテントを張ったので今年もそこにしようと思っていたが先を越された」と話した。彼らは水俣乗越しから来たらしい。 その後中州にも4.5人パーティーが設営を始めた。その晩は松本市内でピンポイント豪雨があったらしいがこちらは一晩中、月が明るく光っていた。  明朝も3時30分に起き食事を済ませ、明るくなってきたと同時に出発しようと決めていた。 少し話をした4人パーティーはまだ暗い4時前に出発、正直ヘルメットも持ってきていないので一番先に行こうと考えていたが先を越された。   テントを撤収し北鎌沢の右又の遡行開始。なかなか快適な沢登りが楽しめる。1時間で先行パーティーを追い抜きどんどん高度を上げていく。2時間で北鎌のコルに着いた。この沢の遡行で本日の山は終了としたいがこれは序章である。本番はこれからだ。 北鎌のコルには「帰らざる君の・・・」亡くなられた方を偲ぶリレーフがあったが縁起が悪いので全文は読まなかった。    

独標までは木の根っこを掴みながら快適に登る。鋸のような北鎌の下部もよく見える。沢を詰めているパーティーが手を振っているのが見えた。北アルプス的な風景が続き「ずっとこのようなアップダウンなら楽勝だな」と少し安心していたが楽しい気分は独標までだった。そこからは岩、岩の連続が始まる。雷鳥がコーコーと大きな声で鳴いていた。雌を呼んでいるのか「注意しろ」と教えてくれているのか?    独標取り付きは平べったい岩の右側に新しい緑のナイロンのロープがあったので迷わずロープを頼りに巻道に行き、かぶり気味の岩を四つんばいで過ぎすぐに支点と残置シュリンゲがあった。とても登れそうもない。もう少し行くと巻道が切れていた(実際は切れておらず更に捲くべきだった)もうここらで登るしかないと覚悟を決めアタック。4,5mの壁は難なくクリアしたがやがて足下はザレザレで浮き石ばかりで動けなくなった。「ヤバイ」と下を見たら「落ちたら助からない」とフッと頭をよぎった。足も震えてきたがなんとか小刻みに手がかりを探しやっと抜け出した。 なんとか独標にたどり着いた。正直怖くなった。   そこからの景色はとんがったピラミッドピークがいくつも乱立して一番奥に更にとがった槍ヶ岳が鎮座している。まだ相当遠くだ。「この先こんなクライミングばかり続くのか?」恐怖感が頭をよぎる「無事に槍まで到達出来るのか?」  深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせて伊三雄さんのアドバイスを思い出した。「注意するところは独標の登りと最後の登りだ」と   とりあえず第一関門は突破であとは楽勝?もう引き返せないし進むしか無い。ビビった気持ちを入れ替え山頂を目指す。  ルートは一目で此処と決めないで右側か左側か直登かよく探してから判断するようになった。   

小さなピークをいくつも越え右側には絶えず巻道が存在していたので時には捲き時には直登しやっとコツが分かってきた。  やっとの思いで槍の麓までたどり着いた最後のピークだ。残った水筒の水を飲み干しアタック開始!まずは左から楽に登り例のチムニーが現れる。右側から楽に登れそうだったが誰もが挑戦しているチムニーを乗り越えると決め取り付く。始めは右上に掴まり岩を抱いて左に移り足を左側の岩に張り乗り切ってクリア。次は直登も出来たが右側に杭があり何だろう?と行って見たら楽に頂上にあがれるルートを見つけた。そのまま楽に祠の脇に出た。  頂上には7,8名居た「アレ?どこから来たの」と聞かれたので「北鎌尾根だ」と答えたが誰も北鎌の存在を知らない一般ハイカー達だった。  もしかしてスタンディングオベーションで迎えられるか若干期待したが叶わなかった。でも無事にたどり着いたのでそんな事どうでも良い事だ。  頂上直下より独標の登りの方が格段怖かった。もっと探してルートを選ぶべきだったと反省している。  でもパートナーが居てザイルがあるならばもっと難易なルートを選択してクライミングしても良いと思う。いかんせん一人だと一番楽なルートを選択せざるをえない。  でもやっと長年の宿題を終え感慨無量だ。   早めにテン場にに着き「今日は飲むぞ~」持ってきた焼酎は昨晩飲み干したので小屋にて買い求めるしかない。ビールを5,6本買ったか?高い買い物になったが一人で祝杯を挙げた。    

おかげでまだ明るいうちに寝入ってしまった。次の日は明るくなったら起きて食事を済ませ遅めに出発。それでも今日中に帰るのでなるべく早く戻りたい。中房温泉は17時で終了なので間に合うかどうか。  帰りには大天井岳にも登り北アルプス、北鎌尾根を横目に銀座を歩く。なんとか16時には温泉に入る事が出来た。 雪渓は一切無く持っていった軽アイゼン、ミニバイルなどは必要なかった。これで最後になるか又いつか来る事があるか分からない。もしチャンスがあるならば雪が着いている時期に来てみたい。 

             


前穂高岳北壁~Aフェース 登攀




日程   7月17日~19日
メンバー CL水島 SL塚越 簑島 
17日 上高地~新村橋~奧又白池
18日 奧又白池~B沢~Aフェース取付~前穂頂上~A沢下降~奧又白池
19日 奧又白池~上高地
記録:蓑島

7月の3連休に前穂のAフェースに行くという計画だったので楽しみにしていた。 まだ梅雨明け宣言がなされていないので天候が微妙なところだ
が予報は17日のみ雨で18,19日は晴天の予報だ 各地で順々に梅雨明け宣言が発令される。 上高地から新村橋を渡って暫く行くと案の定、雷が鳴き始めてきた。 雨足が段々と強くなってきて中畠新道は川の様だ 一段一段の段差がキツい道なので 奧又白池手前でバテてきた。 池に到着した頃には雨は収まった。 貸し切りかなと思っていたのに周辺には既にテントが5張りくらいあったか  明日もあるし疲れているのでその日は早めに就寝した。
18日3時30分起床 5時には出発する。本谷雪渓をトラバースしてバイルと軽アイゼンでB沢を詰める。 雪壁や岩場を乗り越えなんとか取り付き点までたどりついた このアプローチだけでも満足出来る登山だ。 でも勝負はこれからだ 始めに砂や小石だらけのいやらしい草付きを登る。 ハーケンを探しながら行くが 錆びて岩と近い色なので見つけづらい 続いて松高カミンを快適に登り終えると小石まじりのテラス越えになる。 ここで難しいルートを選択したが「やはり無理」と一旦下がり別ルートを探す なんとかクリア 次のピッチももろい石や小石、砂など混じって登りにくい 慎重に登り切るとやっと登りやすい快適なフェースが現れた。 岩にも馴れてきてやっとクライミングらしくなってきたところで最後にチムニーで終了し頂上へ 丁度12時前後だったか? 北尾根組が1組、一般登山者が4,5名 それほど混雑はしていなかった。  少し長めの休憩を終え いよいよA沢の雪渓下りだ 思っていた以上に急な斜面で 軽アイゼンでは少々心配だ。 なにせ滑ったら最後 止まりそうもない   ザイルを出して懸垂することになってちょっと安心した。
支点が無いため 壁際にハーケンを2本打ち込んで降りる事になりシュリンゲ、カラビナなども残地することになった。 全部で何ピッチしただろう最初から最後まで懸垂は続く   最後の懸垂場所で今にも崩れ落ちそうな2トンダンプ一台分の大岩があった  全体が雪の地面に着いているのではなく5,6本の足だけで支えている状態だった 接点の雪がだんだん溶けて来ているのだろう  先に降りた塚越さんは通過するときに「今にも落ちそうだから大声出すなよ」と言っていた 続いて私もその岩の真横を懸垂で降りた。 なるほどやばそうだ でも重力は真下にかかっているので2.3日は平気ではないかと甘く見ていた。 そして最後のピッチを下りきり やっと雪渓の終了点について  アイゼンを外そうと思った矢先、伊三雄さんが「逃げろーっ」と叫んだ。
ハッと上を見上げると雪渓の上部40m位先で爆音とともに白煙が上がった。一瞬「雪崩だ」と思い無我夢中で右側サイドにダッシュし身を伏せた。  すると今まで皆が休憩していた場所に40cm前後の石がゴロゴロと雪崩の様に崩れ落ちてきた。 さっき通過した 今にも落ちそうな2トンダンプみたいな岩が重さでバラバラになり崩れ落ちたのだった。   奇跡的に誰も怪我一つなかった 塚越さんのリュックが身代わりになってくれたおかげだ  
それにしてもA沢の下降はしんどかった。 無事にテントに戻った時は感激であった。  その晩は祝杯を挙げたいへん盛り上がった。  
次の日はまだアルコールが抜けていない状態で7時頃起床しテントを撤収した
帰りには嘉門次小屋の岩魚の塩焼きを食べた 少々値段は張るが塩加減といい焼き加減といい絶妙であった。
自宅に帰った次の日は全身筋肉痛になっていた。でも今回の山行は内容が濃くかなり記憶に残る事になるだろうし  色々良い経験が出来たと思います。